ノエル

2/14
2354人が本棚に入れています
本棚に追加
/180ページ
「冴えねぇな……」 カウンターに広げた羊皮紙から男が手を上げ、両手を頭の後ろに回し椅子の背もたれに背中を預ける 無骨で頑強な椅子も何人も幾度も繰り返される行動にギシギシと鳴き、羊皮紙はさっきまでのポーズを思い出したかの様にクルルンと丸まった 「お前の顔の事を言ってんなら今更だ……お前の懐事情を言ってんならそれも今更だ……で、どうしたグリ」 「総てがだよ……今ここから見える総てが冴えねぇ……昨日見たツラが昨日聞いた話して昨日飲んだ酒飲んで……この後も昨日と同じだろ……デケェ儲け話とかねぇかー幸継」 「あったらこんな店で飲んでねぇって、私も昨日と同じだ……ハァ……金の成る木でも生えてねぇかなぁ……」 溜め息と共に肩越し、後ろを覗き込めば似たような境遇の大勢の客達が満員御礼 低料金で食事と酒を提供してくれる有り難い店も通い続ければ有り難みも薄れる 此処はいわゆる冒険者ギルド兼酒場、そして店でグダグダと酒を飲み続ける彼らはギルド ツイン・テールに所属する冒険者達 この店ネスト・オブ・レプラコーンはツイン・テールに依頼された仕事を彼らに斡旋する 「こんな店で悪かったな幸……そんな大口はツケを総て払った者にしか許されないと思うが?」 カウンターの中で、隻眼銀髪のダークエルフの男が片目をギロリと動かし、名指しされた女性は軽く両手を上げ降参の意を示した ただ女性ではあるが服装は男装、そして冒険者にはとても見えない軽装 パンツスーツの上着をテーブルに放り出し上に細身のネクタイも積んでいる、しっかり寛いでいるのだろう
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!