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<澪目線>
秋は突然やってきて、風がいきなり冷たくなった。
亮太が久しぶりに部屋に来るという金曜日のことだった。
夕方、外出中の亮太から部長に電話が入り、部屋がちょっとざわついた。
亮太の息子さんが事故に遭って病院に運ばれたらしい、という話はすぐに耳に入った。
一気に血の気がひいた。
これはきっと罰なんだ。そんな気がした。
他の人のものを取ろうとしたから・・・・?
喉がカラカラで、目眩がする。
給湯室でシンクに身体を支えてもらい、自分を取り戻す努力をする。
「稲葉・・・・大丈夫か?」
声に振り向くと、何故か片岡先輩が立っていた。
「お前・・・・真っ青だぞ」
「大丈夫です」
横をすりぬけようとしたら、いきなり腕をつかまれた。
「大丈夫って顔じゃない」
と言われたことは覚えている。
それっきり意識が遠のいた。
目覚めたのは、会社の医務室だった。
「稲葉・・・・大丈夫?」
「根元先輩・・・・私?」
「倒れたの。給湯室で」
「あ・・・ご迷惑かけて申し訳ありません」
慌てる私に根元先輩が言った。
「もう終業時間だし、今日はこのまま帰りなさい。許可、取ってあるから」
「はい・・・・」
根元先輩は部屋を出ようとして、背中を向けたまま言った。
「野上課長のお子さん、大したことなかったらしいから安心して」
「あ・・・・・はい」
良かった・・・・と思ったら涙がこぼれていた。
しばらく、声を殺して泣いた。
まだぼーっとした頭のまま、荷物を持って会社を出た。
目の前に黒い車が止まる。
え?と思う間もなく、運転席から誰かが降りてきて、腕をつかまれた。
「乗れ」
「片岡・・・・先輩」
有無を言わさず助手席に押し込められる。
「あ・・・・あの」
運転席に戻った片岡先輩は私を見て言った。
「シートベルト」
「あの・・・・先輩?」
「お前が倒れたとき、そばにいたのは俺だ。責任があるから家まで送る」
その勢いに負けて、思わずシートベルトの金具を止めた。
車は静かに動き出した。
「あ・・・・・あの」
「住所なら山崎主任に聞いた」
「あ・・・・・いえ」
「何だ」
「あ・・・りがとうございます」
片岡先輩は何も言わなかった。
何か怒ってる。
黙っている横顔を盗み見ると、やっぱり怒られている気がした。
結局お互いにひと言も話さないまま、マンションに着いた。
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