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「浩介さんッ!」  亜希が呼掛けても、振り返る素振りもなく、寝室のドアはパタンと閉まる。 「――亜希姉、あんな奴、放っておいて食べよ? お腹空いたッ!」  そう言って腕を引っ張る雄大に引き摺られて、居間に戻ったものの、亜希は浮かない表情になった。  食卓用のカウンターにはランチョンマットを三つ引いて、食器までは用意してある。 (せっかく、みんなでご飯食べられると思ったのにな……。)  公園で雄大が一人で膝を抱えて踞っている姿を見付けて声を掛け、部屋に戻ったところで「今日は早く帰れそうだ」と高津からメールが来たから、密かに期待していた。  その分、余計に高津の不在が哀しくなる。 「……亜希姉?」 「ごめん、お腹空いてるんだよね。今、温め直して、持って来るから。」 「う、ん……。」  口元だけで哀しげに微笑む亜希の様子に雄大は言葉を濁すと、ちらりと高津の入っていった寝室のドアを見つめた。  しばらくして、キッチンから亜希が雄大の分を机に広げて手招きする。 「亜希姉は? 食べないの?」 「ううん、浩介さんと一緒に食べるつもりだよ。」  それを聞くと、雄大は持った箸を、再び箸置きに置く。  そして、席を立った。 「――雄大君?」 「俺、アイツ、呼んでくる。」 「……いいよ、後で食べる。」 「良くない! 料理は作りたてが美味いんだ!」  亜希が止めても、雄大は高津の消えた部屋へと向かうとドアをドンドンと少し乱暴にノックした。 「ガキんちょ、そんなに叩くな。近所迷惑だろう?」  意外にもカチャリとドアが開き、中から着替え終わった高津が腹立たしげに顔を見せる。 「ガキんちょ、言うなッ! 亜希姉がオジサンと一緒じゃないと食べないって言うから呼びに来たんだッ!」 「喚かなくても聞こえる。そんなに耳は遠くない。」 「オジサンだから、聞こえないかと思ったんですぅ~。」  雄大の憎まれ口に辟易とした様子でため息を吐くと、高津は食卓近くで立ち尽くしている亜希の傍へと向かった。 「俺にはよそってくれないのか?」  雄大の席に広げられたハンバーグの様子を流し目で見ると、甘えるように訊ねる。 「ううん、すぐによそうね。」 「……ああ、頼むよ。」  そして、キッチンへ向かう亜希の姿に高津はふっと微笑む。  雄大はその優しい笑顔に眉を潜めた。
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