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浅草紅蓮は闘争心の塊みたいな男だった。
昔っから売られた喧嘩は片っ端から買いまくり、敵と定めた奴には容赦せず、世の中と上手く付き合うための愛想など微塵も見せないような、不器用な少年だった。
その生きざまは高校生になっても変わらず、ストレス発散のために理不尽に怒鳴り散らす体育教師をぶん殴って謹慎を喰らう始末だったりする。
そんな彼が平日の昼間から自室のベッドで寝転がっていると、ノックもせずドアを開け入ってきた幼馴染みが呆れたような声音でこう言ってきた。
「まったく。高一の、それも入学して三ヶ月で教師に暴行とか信じられないよね」
「さらっと不法侵入してんじゃねーぞ雪音」
「そう言うなら鍵くらいかけなさいよね、お馬鹿」
白を基調とした制服姿の安藤雪音はゆっくりと首を振る。
それに合わせるように絹のように綺麗な黒髪が宙を舞う。
端整な少女だった。
日本人とは思えない色白な肌、腰まで伸びた黒髪、同色の黒曜石のように光る瞳。
胸が残念なことを除けば、その美貌だけで結構稼げることだろう。
…………そんなことを言ったら、拗ねて無視されるに決まっているが。
安藤雪音と浅草紅蓮は驚くほど正反対である。
頭脳明晰な雪音に学年でも下から数番目の紅蓮。
運動オンチな雪音に格闘技の大会をロクに練習しないで力ずくで勝ち上がるほどの筋肉馬鹿の紅蓮。
簡単に言えば、優等生と劣等生━━━だと世間一般には思われている。
ここまで正反対な彼らだが、何となく一緒に行動することが多かった。
というか、雪音が手段を選ばない紅蓮のストッパーになり、平和主義な雪音では解決できないような悲劇を暴力で薙ぎ払う紅蓮……なんて構図が生まれていた。
だからこそ。
男女別の体育では、ストッパーがいない紅蓮が暴走して、体育教師を薙ぎ払う結果になったのだが。
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