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それは風の強い日だった。
俺は仕事帰りに神社に寄ろうと思っていた。
最近気分が優れないし、何だかイライラする事が多いし。
いっそすっきりしたい感じだ。
何時ものバスに乗って。
何時もより手前の停留所で降りて。
そこに在る小さな神社に寄った。
小さな稲荷神が二つこっちを向いてお出迎えしてくれる。
俺はお賽銭を奮発して、五百円入れてみた。
どうか。
この気持ちが晴れますように。
礼をしてから、くるりと踵を返す。
その時俺の目の前を、風のように走っていった人物がいた。
それは眼鏡を掛けた少年で。
何かを必死に追いかけているようだった。
ほんの一瞬だったのに。
俺には彼の顔まではっきりと見えた。
もうすぐ春なのに。
彼は白い息をはいて。
俺の前を走って消えた。
俺は自分が信じられなかった。
だってそうだろう?
彼を見た途端。
全てのもやもやが無くなってしまったのだから。
ど、どういう事だ?
この心境の変化は。どうなってるんだ?
俺は家に帰ってからも、彼のことが忘れられなかった。
…おかしいだろ?
相手は男なのに。
こんなに気になるなんて。
これじゃあまるで、まるで。
恋みたいじゃないか。
そう思った途端。
俺の心臓がどきどきと高鳴った。
ええ!?
どういう事ですかっ!?
そういう事ですかっ!?
自分の胸を押さえてみる。
ヤバいぐらいに鳴っていて。
彼の顔を思い出すと、それはもうってぐらいに。
…ああ。
そうですか。
俺にもついに春が来たんですね。
どうしたらいいんですか。
相手は何処の誰ともわからない…男の子なのに。
こんなばかな。
俺は女性が好きだとずっと思っていたのに。
しかしこれが現実。
俺は素直に現実を受け入れよう。
…ああ…。
嘘だ…。
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