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◇
「…はぁ。 姫……本当に、此方なのですか?」
「ええ、間違いありませんわ! サラマンダーもワタクシも、この手のカンは外した事がありませんもの。」
我が主であるキルヴィス様は、小さな立法体の何かをぎゅっと胸に抱き締めて自信溢れる笑みを見せる…が、ふいにその目を細めた。
「それとも、何? 貴方はワタクシや、ワタクシの精霊魔術が信じられないとでも仰るのかしら?」
「い、いえ…滅相もありません! …しかし火の精霊は───方角を図るだの何だのには向いていないのでは、と。 それに、第一、カンって…」
「……火達磨「すみませんッ!」
正直素敵な提案だけれど流石に死んでしまうので、光の速さで謝る事にした。
とはいえ、だ。
僕はつくづく恨むよ、キルヴィス様にこんなに興味を持たせたウェイバーや、そのウェイバーの事を語り続けたシルファ姫を。
そして何より、キルヴィス様が旅を決意するきっかけとなった、この謎の箱を。
キルヴィス様と契約している火の精霊曰く…この謎の箱が勇者のものである、と。
そのキルヴィス様の知る勇者と言えば、シルファ姫を助けたというウェイバーくらいだ。
たったそれだけの理由で旅を始め、そして行き先はカンである。
というか、そもそもこの謎の箱はただのきっかけで、恐らく彼女はただ退屈な日常から飛び出したかっただけなのだ。
「…方角的にはここから先だとすれば、シュトラト公国と都市国家レスポーラ…それに、シャルマー聖教国くらいですね。」
「ほう、レスポーラ? ついでですし、シルファにご挨拶しに行きましょうか!」
嬉しそうに振り返ったその笑顔に一瞬見惚れるも、我にかえって咳払い。
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