第2話

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*――* ドキドキと心臓が駆けっこが終わった時のように、速く動いて――そわそわと落ち着かない。 ――いつもどおり、ただ会うだけなのに。招かれたのが屋敷だからなのか、ソフィは高鳴る胸を抑えてゆっくり呼吸を繰り返す。 シモンの住む屋敷の壁にもたれて、そのままうずくまる。 ――どうしてなのかしら。 心臓の音が体中から響いているようで、なかなか屋敷の門をくぐれない。 湖におぼれた時、この屋敷の中で眠っていたことが信じられない。 ――いつも無視されるかもしれないと、緊張はしていたけど、こんなに胸がバクバクすることはなかったわ。 孤児院のみんなは、今日はお留守番。 でも、連れてくれば良かったと後悔している。 来たがっていたし、何よりこんなに緊張のような、……早く会いたいと焦っているような感情を持つと思わなかったから……。 この前この屋敷に忍び込んだ時はもっと気軽に入れたのに……。あの時と今のドキドキはどこか違う。 ソフィが抱えているのは、クッキーの入った籠。 少し焦げてしまったけれど、初めて作ったわりには上手に出来たと院長先生たちに褒められた。 シモンが望んでくれたのは初めての事だから夢中になって作った。楽しかったし、早く食べて貰いたい。 ――なのに。
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