1章『始まり』

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「今は問題の現象について、公表するつもりはありません。しかし、いつまでも隠し通せる物でもありませんので、本日は皆様にお集まり頂きました」 「私たちを利用するつもりか…」 ヴェルナーの鋭い声が飛ぶ。 「いえ、我々はこの世界を救いたいと思っているだけです。その為にも皆様のお力をお借りして、解決策を見つけたいと…」 それを聞いて科学者達の間に動揺が走った。 「わ、我々に…?」 「しかし、今回は」 「事の規模が…なぁ」 科学者達から困惑の声が漏れ始める。 「ゴホンッ、皆様は数々の功績を残された素晴らしい科学者の方々です。そんな皆様がお力を合わせて頂ければ解決の糸口を見つける事も可能だと、我々は考えています」 「もし、解決策を見つけられなかったら、どうなる?」 「それは……」 ヴェルナーの問いに言い淀む進行役、それを 「そこまでで、いい…」 ロバート議長が止めた、そして自らが話し始める。 「この問題の解決策が見つからなければ、あと数十年後にはこの世界に生きる全ての生物が死に絶える事になる。君達ができなければ、皆が死ぬのだ……失敗は許されん」 ロバート議長はさっきまでとは違い、科学者達を睨む様に言った。 「それと、先程ヴェルナー博士が言っていた様に、私も人々に公表すべきだとは思う、だがその為には解決策が必須なのだ。分かってくれるな?」 それは科学者達に、ではなくヴェルナー1人に宛てたメッセージだった。 だが、ヴェルナーも負けじと食い付いていく… 「つまり、解決策が見つかるまでは公表するな、と言っておられるのですか?」 「いや、私はただ人々を不安に落とし入れる情報を公開する事が、本当にその人達の為になるのか、考えてみて欲しいと言っているだけだ」 「………くっ」 ヴェルナーは言い返せなかった… 確かに、今情報を公開すればパニックが起こるだろう。だが、ここで秘密にすれば自分が嫌っていた政府と同じになってしまう… それが嫌だった。 政府は所詮、自分達の都合だけで情報を隠匿する最低な連中だ。 「つまり、解決策を見つければ、文句ないんだな?」 それが、ヴェルナーの精一杯の抵抗だった。 しかしロバート議長はそれに対して、何も答えようとしなかった。 そして、真横に居る進行役の男性を無言のまま見て、首を少し動かすだけの小さな合図を送った。
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