prologue

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庭に面した掃き出し窓を開けると、夏の終わりの湿った空気が部屋の中に入ってきた。 先ほどまでエアコンで冷やされていた空気は、あっという間に温度を上げる。 それと同時に部屋に立ちこめていた線香の香りが薄らいだ。 「陽二さん、お茶入れたから。リビングに行こう」 声をかけたけれど、陽二さんは顔を上げなかった。 仏壇の前で顔を下に向けたまま、正座も崩さないまま。 俺は陽二さんのそばに歩み寄り、その腕を取った。 夏前に比べて、少し細くなった腕。 無理やり立たせて、引っ張って行く。 陽二さんは子供のように俺の後をついてきた。
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