幻想怪物-ジョウホウ キロクニン-

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アックームの追っている傷が瀕死に値する物であることも、もちろんそこに記述されている。そしてその記録とは別の項目にはもう一つブルーメとアックームが友好関係であることも。その携帯の持ち主が彼女であることが疑わしいと思えるほどに中立的に記述されていた。 今もそう。彼女が目でインプットしたこの状態を文章に変換し、そして指先へと出力する、言わばブルーメは変換機、今この状況を全て文書として記録する機械のようになっている。 それは彼女自身がそうありたいと願うことであり、その状態が理想だと思っている。しかしブルーメは機械などではない、テレサというお化けとはいえ心をもった人物なのだ。それに人の死を極美や愉快と思えるほどに歪んだ感性や精神の類も持ち合わせてなどいない。 普段であればブルーメにとって喜怒哀楽といった感情はとても重宝し、常人が思うように無くてはならない存在なのだが、今この仕事をしている時に限定すればどうしても煩わしさを覚えてしまう、今のような悲しい状況は特にそれが顕著に現れる。しかし感情はまだいいほうだ、いくら自身の胸が締め付けられようが、いくら断腸の念を覚えようがそれは自分の中で我慢すればよいのだから、しかし少しでも涙で視界が歪んでしまえば目の前の状況が分かりづらくなる、それが一番厄介なことなのだ。 そのようにしてブルーメは魔法瓶に注がれた熱湯のように、悲しく煮える感情は全て表に出すことなくただただ重傷を負ったアックームとその周りの状況を携帯に打ち記していた。
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