1章 召喚

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1章 召喚

◆◆ 0 ◆◆  赤と黒の精巧な装飾。煌びやかな調度品。床と壁を作るのは、一級品の大理石。  豪奢なもので飾り付けられたそこは、しかし、おどろおどろしい空気を孕んでいた。  血をまいたように鮮烈な赤に染まる床石を踏みしめ、影は進む。城の中で一番飾り立てられた扉を叩いた。 「入れ」  口調は軽々しくも、重圧を伴う声がする。促されるがまま影は中へ進んだ。  玉座に座るは城の主だ。そして魔族の頂点におわす方。並々ならぬ魔力が対面しているだけで圧迫感を与えてくる。  膝をつき、こうべを垂れる。だが、構わん、楽にしろ、との寛大な言葉に顔を上げた。  青白い肌は美しく、2本の捻れた角は猛々しい。そして赤く艶やかな虹彩。黒の中で色づくそれが、かのお方の魔力の強大さを物語る。 「陛下、ついに人族が勇者召喚を行いました」  ほう、と一言、低く唸るように放ち、王はうつむく。かすかに震える肩。絞り出されるのは、喉奥で押し殺した笑い声。 「そうか、ようやく来たか、この時が!」  喜色がにじんだ笑声が、この広間に響く。ここまで感情の高ぶりを見せるとは珍しい。  しかし勇者の召喚は、王が幾年も待ち望み続けた福音だ。開幕を告げる、鐘の音。ただ待ち続けるしかない苦しさを思えば、開放的になるのも仕方あるまい。 「いかがいたしましょう」 「俺が行く」  玉座から立ち上がり、王が一歩踏み出す。それに懸念を抱いた影が、口を濁した。 「しかし……陛下直々にお見えになるのは危険かと」 「なに、心配は無用だ」  くつくつと喉の奥で笑い声を立てる。影の脇を通り抜け、悠々と歩を進める。  扉を開く、重々しく引きつった音。影が慌てて立ち上がり、後を追った。 「――あいつに俺は殺せまい」  ささやきだけを残し、広間の扉が閉ざされた。
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