670馬力の女

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670馬力の女

さきほど一人減らしたはずだが、どうやらまた一人補充されたようで、敵はまた三人に増えている。 レオは射撃の手を止めると、再びリロードに入った。 しかし同時に彼らの射撃も止まる。 不審に思い物陰から覗き込むと、彼らは床に倒れた何かを起こしているように見えた。 「ガーッ」というコンクリートと金属の擦れる音が聞こえる。 「チッ……いい盾見つけやがって!」 起こしたそれは、コンバインのスロープとして使っていたであろう巨大な鉄板。 邪魔だ。 高さは人間の背丈ほどもあり、横は男三人が余裕で隠れられるほど。 しかも銃弾が命中してもようやく傷が付く程度の硬度がある。 撃った弾は全て弾かれた。 スコーピオンでの攻撃はやめておこう。 レオは愛銃をしばしベルトに挟む。 物陰を飛び出す。 滑り込む。 間合いは6メートル。 6メートル右前にヤツらがいる。 レオが滑り込んだのは木箱の山の陰だ。 腰の高さほどの立方体がピラミッド式で三段、計14個積み上げられている。 強度はないらしく前線の木箱が壊れる音が聞こえるが、まだ大丈夫だ。 一番上の木箱が破壊された。 パラパラと降る木屑と……。 麦だ。 レオは頭のバンダナと肩にかかった麦を払う。 この木箱には朽ちた麦が満載されているらしい。 ……使える。 レオは即座に二段目の木箱の一つを両手で掴んだ。 麦は完全に乾燥しておりさほどの重さはないものの、それでも大人一人以上の重量がある。 だが、レオの腕にとってはそんなもの、トレーニング用のダンベルに過ぎない。 「うぉらぁぁぁッ!!!!」 レオは一思いに木箱を持ち上げ、投げつけた。 大きな箱が宙を舞う。 ヤツらのいる鉄板を狙ったわけではない。 その少し横に木箱は着地し、麦をぶちまけた。 ヤツらに何かしらのダメージを与えたかったわけでもない。 ヤツらの視線をほんの一瞬だけ逸らすことができさえすれば、レオには十分だった。  image=484868043.jpg
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