第一話 妹の異変

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  「どけよ、キモオタ」 ほらね、呼んでくれない。 実の兄に対するものとはとても思えない妹の声に、階段を上る途中だった俺は顔を上げる。 母親譲りの、明るいところでは茶色がかって見える髪。その後ろ髪を赤いバレッタで纏め、同じ色をしたフレームの家用眼鏡を掛け、お気に入り(だと思う)の全国的に有名になった熊本県ご当地キャラクタージャージ上下セットを着こなした女子中学生が、学校では絶対に見せないであろう険しい目付きで俺を見下ろしていた。 彼女の名前は赤坂一歌(あかさかひとか)。 中学二年生。 この俺、赤坂怜人(あかさかれいと)の二つ違いの妹である。 呼びに行くまでもなく俺より30秒程遅れて部屋から出て来ていた妹は、何がそんなに不満なのか、俺の顔を見てから一度足を止め、「フンッ」と下品なようで年頃の女の子らしくもある、高く柔らかい声で鼻を鳴らした。 「な、何だよ?」 「何でもないから。早くそこ退くか、今すぐ消滅してくんない」 とりあえずまだ消滅する気もなかったので、俺は踵を返して妹様の邪魔にならないよう階段を下りることにした。 いつから、一歌はこんなんになってしまったのだろうか。 よくある話だが、昔はどこに行くにも俺にくっついて来るくらいお兄ちゃん子で(という程俺は昔からあまり外出をするのが好きな子供ではなかったが)、将来はお兄ちゃんと結婚するーと言っていた(気がする)くらいお兄ちゃん大好きで、小学三年生までは俺と一緒にお風呂に入るくらい仲が良かったというのに。
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