五、食べない、飲まない、太らない

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「今、都では吾田族が強大な力を持っています。そして、その力は大王を凌ぐものとなりつつあります。皇族を中心に治められている豊葦原を護るためには、吾田族を牽制する新たな力が必要なのです。数十年前、大巫覡様は美羽族の姫を花姫に選びました。その頃、皆が、美羽族が吾田族を牽制してくれるはずだと期待したのですが、そうはならず、美羽族の男たちは都から追いやられ、美羽族の皇后様も王宮の片隅でお暮しです」 「皇后様でいらっしゃるのに王宮の片隅にお住まいだなんて……」 「咲穂姫は晴麻が選んだ花姫ですが、真実は違います。吾田族がつくり上げた花姫です。咲穂姫が皇后となれば、吾田族は神殿をも手中にします。新たな大巫覡はけして吾田族には逆らえないでしょうから」 「いろいろとあるんですね。都って、本当に怖いところだと思います」 「でも、希望もあるんですよ」  何かと聞き返しながら高良を見やれば、高良はにっこりと笑顔を浮かべて言う。 「これは大巫覡様と僕のふたりだけで密かに願っていることなんですが。じつは隠された皇子がもうひとりいるんです。それも美羽族の皇后を母に持ち、吾田族の妨害さえなければ日嗣の皇子となっていたはずの皇子です。その皇子と和多族の真緒姫が結ばれれば、きっと吾田族はみるみる力を失い、豊葦原に平穏が訪れるはずなのです」 「えっ、私が結ばれる? 誰とですか?」 「美羽族の後ろ盾を持った皇子とですよ。美羽族だけでは吾田族には太刀打ちできなかった。でも、和多族の力があれば……。真緒姫の一族は海の近くに集落を持ち、大陸との貿易を行い、財を蓄えています。財は力です。真緒姫が皇后になれば、和多族は吾田族と十分に渡り合える力を持つ豪族になるはずです」  でも、と高良は表情を曇らせる。
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