五、食べない、飲まない、太らない

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「織人には、大巫覡になるか、神殿で死んだように生きるか、その二つにひとつの道しかないのです。そして、長旅の末にようやく貴女を見つけたのに、吾田族の横暴が織人の前途を阻もうとしています」 「それって……どういうことですか?」 「織人が今、生きていられるのは、赤子だった織人の額に印が現れたからです。印は、豊葦原の神から力を与えられたことの証。豊葦原の神は、生まれたばかりの赤子の額に指の腹を押し当てて、お前だ、お前こそが相応しい、と言って神の意を伝える者を選ぶのだといいます。選ばれた赤子には神力が宿っているので、神殿に集められ、巫覡として育てられます。ですから、印を持った織人は神殿に護られ、殺されることがなかったのです」 「ちょっと待ってください。何の話ですか? 織人は誰かに命を狙われていたんですか?」 「真緒姫は不思議に思われていませんか? 大王には多くの妃がいます。それこそ両手の指の数よりも多くの妃です。皇女様も何人かいらっしゃいます。なのに、皇子は矢凪様おひとり。秋津妃を生母に持つ皇子しかいないのです」 「言われてみれば、不思議ですね……」  寝転んだまま首を傾げれば、肩を軽く叩かれ、起きるように促された。真緒は、むくりと起き上がって高良の正面に座る。
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