五、食べない、飲まない、太らない

11/14
294人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
「真緒姫は、矢凪皇子を慕っておられるんですよね? だから、こんなにも頑張って痩せようとしていらっしゃるんですよね?」 「……ええっと。…うーん、そうですねぇ……」  どうしてなのか、真緒は即答できなかった。  たしかに痩せようと思った初日は、矢凪に愛されたい一心だった。痩せたら自分も咲穂のように矢凪に抱き上げて貰えるのではないかとか、痩せて美しくなった姿を見せて、綺麗になりましたね、と矢凪に褒めて貰いたいとか、そんな妄想や願望を抱きながら織人のむちゃくちゃな指示に従って頑張っていた。  だけど、正直、それだけでは乗り越えられない辛さがある。その人のために耐えようと思えるほど、矢凪は真緒にとって大きな存在ではなかったのだと、真緒は汗にまみれながら悟った。  今思えば、泣きながら織人に矢凪への想いを訴えたあの時が気持ちの最高潮だった気がする。そこから気持ちが落ちて行ったのは、この数週間、一度も矢凪の顔を見ていないからだ。  彼のために頑張っているのに、矢凪は真緒のもとにまったく足を運んで来てくれず、手紙も、言伝を託した侍女さえ送って来ない。これでは、どんな強靭な恋心も萎えてしまうというものだ。  だけど、真緒には矢凪を恨めしく思う気持ちはなかった。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!