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「残念ながら」
私は京ちゃんの真似をして、両手を上げてオーバーアクションをしてみせた。
「そう…。あのさ、えむちゃん」
なぜか、京ちゃんは急に控えめな声になり、私に何か訴えかけるような目を見せた。
「うん?」
竹を割ったような性格の京ちゃんがこんな風にためらい口調になるのは珍しい。
「いや……その、お昼食べた?」
「あ、まだだよ。出発までまだ微妙に時間あるし、何か食べる?」
多少不思議に思ったけど、次の瞬間にはいつもの彼女に戻っていて、
「うん、お腹空いちゃった」
「何食べる?」
その後はもう、何も気に留める事はなかった。
「うーんと、つるつる系?」
「麺類ね。賛成」
京ちゃんと話しているうちに先刻の彼との出来事は次第に薄れ、
「よし、じゃ、行こう」
やがて脳裏から完全に消えた。
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