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時刻は午後十時少し前。
お風呂から上がってミネラルウォーターを飲んでいる時だった。
玄関のチャイムが鳴り、珍しい夜の来客に首を傾げながら、ドアを開ける私。
「夜分恐れ入ります」
いきなり深々とお辞儀をする目の前の人物に、体が硬直した。
礼儀が良過ぎで、雰囲気がハンパない。
このマンション、オートロック以外の他に何があった……?
コンシェルジュがいる高級マンションなんて聞いてないけど……?
誰っ???
疑問符だらけの私に深々と頭を下げていた人物は、ゆっくりと体を戻す。
ふわっと甘い香りが玄関に舞った。
「私、本日隣に越してきました、結城と申します」
「……は、はあ……」
「どうぞ宜しくお願い致します。それからコチラ、ご挨拶代わりに」
そう言って差し出されたのは、美味しいと噂には聞いてるけど自分では買えないだろ、という某高級菓子店の箱。
私は、箱と贈り主の顔を交互に見ながら、おずおずと手を出した。
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