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「着いたーッ!」  久保の1Kの部屋に着いた途端、江梨は靴を脱ぐとズカズカと上がり込んだ。 「うわあ、狭ーいッ! こんなバスルーム並みに狭いところに、人間って暮らせるのねッ!」 「狭くて悪かったな。」 「あ、怒った?」  靴を脱ぎながら、久保はやれやれと江梨の後に続いて部屋に上がる。 「いや、怒ってはいないけど、迷惑はしてる。それとあんまり騒いだら、近所にも迷惑だから。」 「私、普通の声量で喋ってるよ?」 「ここの壁は、あってないようなものなの。」 「そ、そうなの?」 「そうなの。」  筋金入りのお嬢様な江梨には、それくらい大袈裟に言って置かないと日本の住宅事情は伝わらない。 「江梨姉の話してる内容はばっちりお隣さんに聞こえてるからね。」 「ええッ?」 「一軒家の鎌倉の家とも違うんだ。大声や足音には気を付けて。上の階や下の階にも響くから。」  すると、江梨はぐるりと辺りを見回し、一人で何か納得したように、うんうんと二度頷いた。 「忍者屋敷って事ね。」 「……は?」 「日頃からひそひそ話に、忍び足なんでしょ?」 「……いや、それ、何か認識間違ってるから。」  じっと見つめてくる江梨の様子に苦笑いを浮かべる。 「そんな顔をしても、俺、何の術も出来ないからね。」 「そうなのぉ? ツマンナーイ。」 「……あのねえ。」  呆れながら奥の部屋へと江梨を案内すると、久保は出したままにしていた手紙の束を、さりげなくサイドボードの引き出しにしまった。  その様子に気が付きながらも、江梨は目の前にあるシングルベッドに、ぼすんと音を立てて座った。 「本当に何も出来ないの?」 「出来ません。ちなみに手裏剣も持ってないから。」 「エーッ。」  そう言って面白くなさそうに口を尖らせる。 「『つまらない』とか『エーッ』って言われても、侍も忍者も現代日本には居ないからな。」 「侍も居ないのお?!」 「いません。それと静かにしろってば、夜なんだから。」  江梨はぷくっと頬を膨らませると、枕にぼすりと倒れこみ、ごろんとベッドに寝転がった。
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