第6話

8/19
1504人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ
~*~*~*~*~*~ 見張られた状態での脱出は、思ったよりも容易だった。 『朝ご飯、一緒に食べませんか?ずっとそんな所に立ちっ放しで、お腹も空いたでしょう。』 冷たい態度で追い出しておきながら、一晩中玄関の外にいたのであろう黒田さんに、何事もなかったかのようにいつも通りの声色で誘いを掛ける。 『…あの…昨日は本当に』 『その話はもう止しましょう。ご飯が冷めてしまいます、早く入って下さい。』 『…ハイ…』 大きな図体でショゲながら家に上がった黒田さんは、テーブルに並べた朝食を見て、 『こ、これを…私の為に?…ありがとうございます…!やはり、貴女はお優しい…』 急にテンションを上げ、先に私の椅子を引く。 その彼が急に顔色を変えトイレに駆け込んだのは、食事を半分程平らげた後だ。 『大丈夫ですか?黒田さん。』 『……』 『…私の下手な料理のせいですね…ごめんなさい。』 『いえっ…そんなことは…!…うっ!?』 置き薬を探すフリしながら何度もトイレへ戻る姿を追い、次第に準備は完了して行く。 『あのっ…薬が見つからないので、坂上さんの所へ行って貰ってきます。』 『だ、大丈夫…っ…ですから…!…自分で電話して…持って来て貰いま…うくっ…』 『無理なさらないで下さい、私のせいなんですから…!…直ぐに戻ります。待ってて下さいね。』 『ダメ、です…!一人で部屋を出ては…っ、はう…っ!』
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!