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「私、フラれたんですよ?」
言う朱音は、困った様な、でも、泣きそうな、そんな複雑な表情で、笑う。
「……、」
「一度フラれて、無かった事にして欲しいって言われて、あーゆー場面に出くわして、……そこまで徹底的にフラれてるんですよ?」
徹底的に。
せや、一番効果的な断り文句を使った。無かった事にして欲しいとも言った。
他のオンナと絡んでるんも、見られた。
「私、これ以上、失恋こじらせたくないですもん」
「っ、」
「毎週、会うのは、……辛いです」
失恋?
誰が、誰に?
朱音が、俺に?
違う。
……や、違くないねんけど、違う。
「会う度、好きで、……会う度、失恋するのは、」
「今、告われたら、断らん」
「…………、え?」
ん?
「あ、れ?」
「……っ、」
「俺、今、」
何て言った?
思わず、口を抑えて、フリーズ。
考えるより先に、口を吐いて出た言葉。
今、好きや、言われたら??
「っ、私の作ったご飯が、食べたいだけでしょ」
不意に、目の前から、低い声。
唇を噛んで、俺を見上げるんは、潤んでるけど、確実に怒っとる眼。
「……朱音、」
「私の事、好きじゃないのに、よくそんな事言えますね?そこまでして、ご飯が食べたいですか?」
あの夜と同じ。
やけど、あの夜より感情的な声。
「やっぱり、嘘ばっかり」
「っ、朱音、」
「うそつき!ぜーんぶ、嘘!私には、嘘しか言わないっ!!」
ポロポロと涙を零して、作った握りこぶしが力なく俺の腕を叩いて、
「人を何だと思ってるの?彼氏が居るって嘘言って、無かった事にして欲しいって、人の想い拒絶して、……それなのに、こんな、」
うまく言葉が出てこないんか、嗚咽だけが続く。
その涙を拭おうと頬に触れた手は、強く拒絶されて、朱音は、そのまま玄関に座り込む。
「朱音」
「やっ!!」
触れようとする度、振り払われる。
あぁ。
俺も、ずっとこーやって人を傷つけてきてたんやな。
ホンマの好意にすら、ただ拒絶して、ソレに甘えて、更に傷つけた。
「ごめん、な」
「…………」
「朱音。ごめん」
因果応報。
自分のした事は、自分に返ってくる。
必ず。
「ごめん。朱音」
ホンマ、刺されるべきやったんかもな。
刺された方がマシや思ったんは、ホンマなんやで?
「朱音、」
そら、朱音のメシは好きやけど。
やけど、……それ以上に、朱音からの拒絶が、シンドかってん。
「……好き、やで」
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