Vol.09

3/5
1902人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
  「私、フラれたんですよ?」 言う朱音は、困った様な、でも、泣きそうな、そんな複雑な表情で、笑う。 「……、」 「一度フラれて、無かった事にして欲しいって言われて、あーゆー場面に出くわして、……そこまで徹底的にフラれてるんですよ?」 徹底的に。 せや、一番効果的な断り文句を使った。無かった事にして欲しいとも言った。 他のオンナと絡んでるんも、見られた。 「私、これ以上、失恋こじらせたくないですもん」 「っ、」 「毎週、会うのは、……辛いです」 失恋? 誰が、誰に? 朱音が、俺に? 違う。 ……や、違くないねんけど、違う。 「会う度、好きで、……会う度、失恋するのは、」 「今、告われたら、断らん」 「…………、え?」 ん? 「あ、れ?」 「……っ、」 「俺、今、」 何て言った? 思わず、口を抑えて、フリーズ。 考えるより先に、口を吐いて出た言葉。 今、好きや、言われたら?? 「っ、私の作ったご飯が、食べたいだけでしょ」 不意に、目の前から、低い声。 唇を噛んで、俺を見上げるんは、潤んでるけど、確実に怒っとる眼。 「……朱音、」 「私の事、好きじゃないのに、よくそんな事言えますね?そこまでして、ご飯が食べたいですか?」 あの夜と同じ。 やけど、あの夜より感情的な声。 「やっぱり、嘘ばっかり」 「っ、朱音、」 「うそつき!ぜーんぶ、嘘!私には、嘘しか言わないっ!!」 ポロポロと涙を零して、作った握りこぶしが力なく俺の腕を叩いて、 「人を何だと思ってるの?彼氏が居るって嘘言って、無かった事にして欲しいって、人の想い拒絶して、……それなのに、こんな、」 うまく言葉が出てこないんか、嗚咽だけが続く。 その涙を拭おうと頬に触れた手は、強く拒絶されて、朱音は、そのまま玄関に座り込む。 「朱音」 「やっ!!」 触れようとする度、振り払われる。 あぁ。 俺も、ずっとこーやって人を傷つけてきてたんやな。 ホンマの好意にすら、ただ拒絶して、ソレに甘えて、更に傷つけた。 「ごめん、な」 「…………」 「朱音。ごめん」 因果応報。 自分のした事は、自分に返ってくる。 必ず。 「ごめん。朱音」 ホンマ、刺されるべきやったんかもな。 刺された方がマシや思ったんは、ホンマなんやで? 「朱音、」 そら、朱音のメシは好きやけど。 やけど、……それ以上に、朱音からの拒絶が、シンドかってん。 「……好き、やで」  
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!