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それから数時間の後。
無事に朝が訪れたことが嘘のようで、美砂は白み始めた窓の外をぼんやりと眺めていた。
「あまり上階を出歩かないでくれ。君たちは監禁されていることになっているんだよ?」
不意にそう声をかけたのは上下ジャージ姿の峰岸だった。
昨日の荘厳な鎧姿とのギャップが可笑しくて、美砂は思わず吹き出してしまいそうになる。
不思議な気持ちだった。
昨日は峰岸によって相当に痛めつけられ、クロに至っては殺されかけたというのに、どうにも彼が悪人には見えない。
逆に、美砂達に手痛くやられていた団員たちも恨み言の一つも零すことはなく、むしろいたわるような風であるから、ますます憎めない。
「ごめんなさい。すぐに降りるわ」
「助かる。今から少し打ち合わせがしたいのでね」
「そうね」
二人が地下室に下りると、クロ、桜、恵美の3人が既に卓についていた。
他の団員たちは窮屈そうに壁際に並んで立っている。
「さて、今後の流れをもう一度確認させてもらう」
峰岸はトーイズの案内図と、ALL FOR ONEギルド本部内の見取り図をテーブルの上に広げて見せる。
「岩城正義の率いる征伐隊が駆けつけるまでには恐らく、最短で3日を要することになる。それまで君たちにはこの屯所に隠れていてもらう」
峰岸が地図上の「行政区」の一角を指さしながら言う。
美砂たちは希望の村の生き残りをすぐにでも助けに行きたい気持ちであったが、無茶をすれば事態が悪化しかねないことは十分に承知していたため、頷かざるを得なかった。
「昨晩にALL FOR ONEの本部から、君たちについての情報を提示するようにと要請があったが、『どんな拷問に対しても口を割らない、もう少し時間をくれ』と断っておいた。どこまで誤魔化せるかは分からないが、奴らが強硬手段に出た場合は最悪、ここに籠城するつもりでいる。その場合、討玄郷の本隊の到着を待たずして、隣村の部隊が動く手はずになっている」
どちらにせよ、この村で戦争が起こるのだと思うと、美砂たちは固唾の飲み込まずにはいられなかった。
古賀と名乗るALL FOR ONEのトップだけを暗殺してしまえれば戦争を避けられるのかもしれないが、あちらもきっと警戒していることだろうから、それはきっと不可能に近い。
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