舞台袖1

2/3
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
 暗闇だ。  私は自身を包む無限に広がっているかのような闇を見渡す。  ここは、どこだろうか。  頼りを探すように手元を見下ろしてみると、そこには見慣れた自分の色白の手があった。  紺の長袖は、学校の制服のようだ。自分の格好を見てみると、やっぱりそのとおり。ブレザー、シャツ、スカートと、いつも学校に行くのとまったく同じ姿。  わずかに疑問が頭を掠める。こんなに暗いのに、なぜ自分の姿だけははっきりとわかるのだろう。  私はまた、見通すことのできない闇に目を凝らす。  濃密な闇は、まるで現実のようだ。  いや、空想のようだ、だろうか。  これが夢なのかどうかはわからないが、なぜ私はこんな状況にいるだろう。直前までの記憶もはっきりしない。  目を閉じる。  闇が闇を覆う。  目を開ける。  光があった。  不思議に思って、私は首をかしげて遠くに見えるそれに近づいてみる。  近寄るにつれて徐々に輪郭がはっきりし、正体が知れる。  男の子だ。  木の椅子に腰掛けた、私と同じか少し年下くらいの男の子が、大きな本を読んでいる。  黒いパンツとワイシャツは学校の制服に似ているが、ところどころに細かい綺麗な模様がある。蔦と、花だろうか。  真っ黒な髪は、妙に前髪だけ長く、男の子の顔は見えない。しかし、黒縁の眼鏡を掛けているのだけはわかった。 「あなたは、誰?」  尋ねてみると、男の子がわずかに顔を上げて私を見た。でも顔は眼鏡と髪に遮られている。 「君は、何?」 「……あやめ」 「『あやめ』? そういう名前の人形? それとも人間?」 「……人間」 「そうだよね。じゃあ、帰れ」  男の子は語調を強めることもなく唐突に命令した。 「どこから来たのか、わからないの」 「そうなんだ。それなら、遊ぶ?」  さっきとは正反対の提案に、私は咄嗟に答えることができない。  すると男の子は続けて提案した。 「それとも、読む? それでもないなら……一緒に考えてくれる?」 「考える? ……何を?」 「あれ」  男の子は左手を本から離して、暗闇の一点を指し示した。  目を凝らすと、光を放つ何かがそこにあった。  あれは…… 「お屋敷?」
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!