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暗闇だ。
私は自身を包む無限に広がっているかのような闇を見渡す。
ここは、どこだろうか。
頼りを探すように手元を見下ろしてみると、そこには見慣れた自分の色白の手があった。
紺の長袖は、学校の制服のようだ。自分の格好を見てみると、やっぱりそのとおり。ブレザー、シャツ、スカートと、いつも学校に行くのとまったく同じ姿。
わずかに疑問が頭を掠める。こんなに暗いのに、なぜ自分の姿だけははっきりとわかるのだろう。
私はまた、見通すことのできない闇に目を凝らす。
濃密な闇は、まるで現実のようだ。
いや、空想のようだ、だろうか。
これが夢なのかどうかはわからないが、なぜ私はこんな状況にいるだろう。直前までの記憶もはっきりしない。
目を閉じる。
闇が闇を覆う。
目を開ける。
光があった。
不思議に思って、私は首をかしげて遠くに見えるそれに近づいてみる。
近寄るにつれて徐々に輪郭がはっきりし、正体が知れる。
男の子だ。
木の椅子に腰掛けた、私と同じか少し年下くらいの男の子が、大きな本を読んでいる。
黒いパンツとワイシャツは学校の制服に似ているが、ところどころに細かい綺麗な模様がある。蔦と、花だろうか。
真っ黒な髪は、妙に前髪だけ長く、男の子の顔は見えない。しかし、黒縁の眼鏡を掛けているのだけはわかった。
「あなたは、誰?」
尋ねてみると、男の子がわずかに顔を上げて私を見た。でも顔は眼鏡と髪に遮られている。
「君は、何?」
「……あやめ」
「『あやめ』? そういう名前の人形? それとも人間?」
「……人間」
「そうだよね。じゃあ、帰れ」
男の子は語調を強めることもなく唐突に命令した。
「どこから来たのか、わからないの」
「そうなんだ。それなら、遊ぶ?」
さっきとは正反対の提案に、私は咄嗟に答えることができない。
すると男の子は続けて提案した。
「それとも、読む? それでもないなら……一緒に考えてくれる?」
「考える? ……何を?」
「あれ」
男の子は左手を本から離して、暗闇の一点を指し示した。
目を凝らすと、光を放つ何かがそこにあった。
あれは……
「お屋敷?」
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