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「なに笑ってんの?」
「だって……池宮さんも若いのに、そんな言い方」
「まあね、でも大学二年生の俺から見たら、十分若いよ」
大きく伸びを一つした歩は、ソファに深くもたれかかった。
二人が座っているソファーは、来客用に設置してあるものだ。
しかし実際に使っている人を紗江は見たことが無かった。
多くの人は、ロビーなんかに座る間もなく、部屋へと導かれていくに違いなかったのだから。
もちろん紗江も、ここに座るのは初めて。
二人が座ってから通る人はいなかったが、こんなところに座っているのを見られたら、なんと思われるのだろうかと急に不安になった。
間違いなく、早く部屋へ連れていけばいいのにと、不思議そうな目で見られることだろう。
けれども、歩を部屋へ連れていくわけにもいかないではないか。
そうこうしているうちに、自動ドアが開くのが分かった。
同時に、ハイヒールの音を響かせて女がロビーに入ってくる。
そして二人の隣をチラリと見て、当然のことながら通りすぎていく……はずだったのだが、不意に足を止めて言った。
「歩?」
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