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「で、こっちが朱美。藤吉朱美(ふじよし あけみ)」
何も言わずにいる女の代わりに歩が言う。
「どうも」
と呟いた紗江への返事は、またしてもなかった。
少なくとも紗江にとっては気まずい沈黙が流れたあと、唐突に朱美が言った。
「歩の彼女なの?」
そんなわけないでしょ!
ちっとも見られていない紗江のほうが、よっぽど声をあげてやりたかった。
けれども、それよりも早く口を開いたのは歩のほうで、
「そうだよ。この子、俺の彼女」
と、とんでもないことを言ってのけたのだ。
「は?」
抗議の声をあげたのは、紗江だ。
しかし彼女の声は完全に無視されていた。
「へえ。彼女、できたんだ」
「まあね。朱美は彼氏とうまくいってるの?」
「うん……まあ」
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