責任と我儘

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焦らせば焦らす程 懇願する様に見詰める表情が、自分にだけ見せる顔であることを土方は知っていた。 その顔が見たいが為に土方は、何処までも薫風を追い詰める。 けれど今日に限って、土方にもその余裕は無くなる。 薫風のたった一言が土方の箍(タガ)を外す事になるのだ。 「これで……最後、最後ど、す。」 「最後だと……?」 譫言の様に紡がれた、その掠れ声に土方の動きが止まる。 薫風の言葉の意味が理解出来なかった。 「ウチが何も知らんと思うてますの?」 「何がだ……」 「『君菊』……」 その名に 土方は脳天を撃たれた気がした。 『君菊』……それは、己が抱いた もう一人の妓。 そして、己の子を身籠もり自身の手で落籍させた妓…… 決して 愛しているから ではなく、男としての責任から引き取った。 「終止符くらいはウチに打たせて下さい。 ……ウチの最初で最後の……我儘どす。」 「薫風……」 別れを紡ぐ薫風の双眸から止めどなく溢れる涙は、今も尚 土方を求める証。 それが痛い程分かるから…… 求めるなら与えてやりたい…… 土方の嘘偽り無い想い。 喩え…… 今宵で最後になろうとも 全身から自分へのオモイを溢れさせる薫風に 甘く長い口付けを落とせば、彼女の求めるモノを その身深くに沈めてやった。
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