0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
第1話
僕には恋人がいる。名前は春子。明るくて、気配りのできる優しい人。高校二年の時から付き合って、もう10年になる。そろそろ結婚も考えている。だけど僕の彼女には顔がない。実際にないわけじゃない。どうやら僕にだけ見えないらしい。だからといって僕がおかしいわけではないはずだ。会社の人やお店の人、道歩く人たちの顔はわかる。皆それぞれ個性のある顔だ。だけど、彼女の顔だけはわからない。彼女の顔にはなにもない。昔話に出てくるようなのっぺらぼうのようにのっぺりとして、なにもない。
「なに、どうしたの?そんなにじっとみて」
彼女は僕の視線に気づいて、不思議そうに首をかしげる。なんでもないよ、といえば、なにそれ、と笑う。別にどうということはない。彼女の顔がなくても、僕は彼女が好きなことに変わりはない。
最初のコメントを投稿しよう!