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「これ…女装にしか見えないだろ」
「そんなことない。立派な女の子だ」
柊は大切そうに、愛しむように俺の頭を撫でる。
「……やめろ」
俺はあまりの気持ち悪さに鳥肌が立ち、その手を払った。
「君はまるで懐かない猫みたいだ。そういう姿も可愛いから許せるんだけどね」
「可愛い可愛いって……そこまで言うほどか」
「可愛いよ。会ったときから僕の天使だ」
天使、という言葉にオレンジくんを思い出した。
同じ天使でも、オレンジくんの言う天使の方がずっと嬉しい。
この男の言葉はどうにも、深い闇のような歪な感じがして気が許せない。
「さ、朝食だよ。行こう」
ごく自然に俺の手を握る。
放そうとしても、びくともしなかった。
「…はは、相変わらず僕を拒否しようとする。でも僕は諦めないから」
「………俺があんたに気を許す日なんて来ない」
「それはどうだろう。僕は信じてるけどね」
何故か、自身満々に答えるこの男。
俺を形で支配できたとしても、心まで手に入れるなんて…無理に決まっている。
なのにどうして、この男は俺の心が動くといえるのか。
嫌々ながらも手を引かれ連れて行かれた先は、本当にこれが朝食かと思うほどに豪華な食事が並べられたテーブルがあった。
「残さず食べようだなんて思わなくていいよ。好きな分だけ食べればいい」
柊は椅子を引いて俺を座らせる。
そして周囲にいた執事が、俺の隣の席を引いた。
柊は当たり前のように俺の隣に腰かけ、「いただきます」と言って食事に手をつけ始めた。
こんなに大きなテーブルなのにわざわざ俺の隣に座るなんて…
「輝ちゃん、食べないの?」
「………いらない」
「どうして?お腹減ってない?」
「……そうだ」
実際はそんなことはない。普通にお腹は空いてる。
でもこの男と一緒にご飯を食べると考えただけで、食欲など失せた。
「駄目だよ輝ちゃん…しっかり食べないと」
「食べたくない」
「そんな駄々こねないでさ」
まるで子供をあやすような言い方に、更に俺は苛立ちを覚える。
こいつにとって俺は、いつまでたっても子供なのかもしれない。
「じゃあ、僕が食べさせてあげるよ。あのときを思い出すなぁ」
柊は嬉しそうに魚の身を解し、箸に挟んで俺の口元に持ってきた。
「…いらないって言ってるだろ」
「これだけでも食べようよ」
この男があーんしたものを口に含むなんて、拷問だ。
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