急激な加速

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部屋中を探しても鞄は見つからず、携帯がどこにあるのか分からない。 探しに行こうと部屋から出ると、外で執事が待ち構えていた。 「……っ!?」 「輝様、どちらへ?」 「えっと……探し物を…」 「それはこちらでしょうか?」 スッと差し出されたのは、俺の携帯だった。 「あ…それです!一体どこに……」 受け取り、画面を表示する。 受診メールも着歴も全くない。 そもそも、俺の携帯って…待ち受け画面こんなだっけ? 「輝様が所持されていたものと全く同じ機種だそうです」 「え……」 「もともとの携帯は、隼人様が契約を破棄されました」 「はあ…!?」 俺は慌てて電話帳を確認した。 柊の名前しか登録されていないことに絶句する。 「それでは、私はこれで失礼いたします」 執事は一礼すると、俺の前から去って行った。 俺は部屋に戻り、椅子に腰かける。 携帯からネットに繋げようとしたが、それは叶わなかった。 ここのインターネット環境が悪いのか、それともこの携帯がそういう設定にしてあるのかそれは分からない。 改めて部屋を見回した。 そういえば…この部屋、これだけ色々揃ってるっていうのにパソコンがないんだよな。 俺と外との繋がりを全て切るつもりだというのか。 そのとき、俺の手の中で携帯が振動した。 着信相手は柊だ。 俺は放置したが、すぐに2回目がかかってきた。 それも無視すると、3回目。 これは俺が出るまでかけ続けるのかもしれない。 「…はい」 『やっと出たね、輝ちゃん。執事から手渡したっていう報告は聞いてるよ』 「俺の携帯の契約まで破棄するなんて、どうかしてる」 『……そうだね。僕は輝ちゃんのことになると、どうにも冷静でいられなくなる。……同性相手でも、仲良く話しているのを見ると妬いてしまうんだ』 「…なんだそれ……」 『君の携帯の電話帳に登録されているのが僕だけだという事実が、とてつもなく嬉しい。だから僕は、反省なんてしない』 相変わらずの話の通じなさに、俺は言葉を失った。 この男に抗議したところで、携帯は戻ってこない。 俺はため息をついて電話を切ろうとした。 『―――輝ちゃん』 「…もう切るぞ」 『また夜にね』 俺は電話を切った。 やるせないそんな思い。 この箱庭の中で、俺はどうしろというのか。 先の見えない絶望感に押しつぶされそうだった。
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