第5話

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《謎》 単なる自殺か犯罪か輪島は少し首を傾けて「どしっ」と、事務椅子に座っていた。端からみれば窮屈そうにしか見えない。両袖椅子だけに余計にそう見えてしまうのだろう。 午前9:00昨日の事件についてのミーティングが始まる前輪島は目の前に出された茶を飲もうともせずじっと睨み付けている。 ぼりぼりと一指で鼻を掻いて漸く湯飲みに手を伸ばし口を付けた。 「なんで9人も死ぬんや。今はやりの自殺サイトか?」事件といえば事件、しかし自殺は自殺。自殺と片づけて良いものか。余りに多すぎる人数。 更に子供の亡骸を見て鳴咽する彼女達の両親の姿を思い出すとなんとも言いようのない気持ちになる。 それらが頭の中を駆け巡り見えない犯罪者をイメージしていた。 「こんなん犯罪や、自殺やない。」その言葉が何度もリピートする。 輪島が引っ掛るのは、9人の生徒が全て悲鳴を上げながら飛び降りたという事だった。 自殺者が自殺する心境と言うのは体育会系で無学な輪島でも少しは分かる。絶望感、脱力感、そう、例えて言うなら魂が抜けてしまったような状態。死に対する恐怖を忘れてしまう様な状態だ。躁鬱症や借金苦、原因は様々あれど、生きる気力をなくす事が要因の筈である。 輪島が高校時代同じ柔道部だった友人が輪島にクイズを出した。それはこれから自殺をしようと考えている人間に自殺を促す為にはベートーベン作曲の田園と運命のどちらを聞かせると良いかと言う問題だった。輪島は迷いもせず当てずっぽうに運命と答えた。 友人は笑って「そう思うやろ実は田園なんや。」と得意げに答えたのを憶えている。 「ええか輪島、運命なんか聞いたら余計に恐怖心が芽生えてしまうがな。そやけど田園を聞いたらリラックスして自殺しやすくなるんや。気楽に死ねるちゅうわけや。」
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