第6話

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 制服を着たまま勝手口から出て、喫茶店近くのパン屋に向かう。何個かのパンとパックコーヒーを一緒に会計したあと、僕はスタッフルームで一人、昼ご飯を食べ始めた。  正直、バイトをする気になれない状態だけど、だからといってアパートにいたい心境でもなかった。  昨日の夜、これ以上ないくらいに気まずくなった空気に耐えられなくなった僕は、シャワーに逃げた。そして、そのあともキッチンで洗い物などをして、少しでも部屋に入らないよう動いた。  アゲハも僕と同じ気持ちだったらしく、いつもより早くにベッドに入った。  今日の朝は、いつも通りに振舞おうとして、結局、お互いギクシャクした状態で出てきた。  きっと、僕は、何かを間違ったんだろう。  そうでもないと、アゲハがあんな顔をするはずがない。  でもまだ、何を間違ったのか、僕は分かっていない。  事前に何も言わず、元に戻す方法を実行しようとしたのは、確かによくなかったかもしれない。  アゲハだって、びっくりする。  でも、そうじゃないんだろうなぁ、きっと。  それ以前の問題なんだろう。  ――蝶に戻れるまで、ここで暮らさない?  あの豪雨の翌日、僕はそう言った。そのあとに『元に戻る方法はこれから考える』とも。  僕はそれを実行しようとした。でもアゲハは、元に戻ることを望んでいなかった。  昨日のアゲハの言葉が、僕にそう教えてくれた。
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