第4話

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第4話

急に竹村健一の口調になったけど気にせんといてな。また戻るさかい堪忍な。  矢吹君の病気はみるみる回復したのだ。驚異的な回復の原因は矢吹君の体力もさることながら、本当の白血病ではなく、だいたい白血病であったからであった。  そうして看病しているうちに私は矢吹君を愛していることに気づいたのであった。私は、今とても幸せです。今まで私を苦しめていたものすべてから解放された気分です。  たとえば、スキマスイッチは一体どこの隙間のスイッチなのか、そして何の為のスイッチなのか、そのスイッチには強弱の区別があるのか延々その悩みが頭から離れず、いっそ剃髪して仏門にでも入ろうかと思っていましたが。そういった悩みなどどうでもよくなって来た。これも矢吹君のおかげです。  私と矢吹君はその後何度も知らない人のお葬式でデートをした。二人で将来を語り合った。もしもお墓を建てるならどんなお墓がいいかなとか、どんな戒名がいいかなとか、そもそも、馴れ初め…じゃなくて死に初めはどんなのががいいか、ロマンティックな死に方がしたいな、ロミオとジュリエットのような死に方がしたいな、と語り合ったのです。 素敵な死に方を望んだ瞬間。今生きていることがなんだか物足りないように感じられませんか?そう矢吹君に尋ねると、分からないだっちゃと答えた。なに、なんでだっちゃとか言い出しちゃってるの?いい年して語尾おかしくない?そう思いながら彼をよく見ると、漫画の神様手塚治虫先生が「なんでこんなのが受けているのか分からない」と嘆いていたという劇画風タッチから高橋留美子先生の描くラブコメ風タッチへと変わってしまっていたのであります。 それは激しい闘争の場に身を置いていた矢吹君が初めて心落ち着けることのできる人がこの世に一人でも存在したことによる心境の変化の為であったのです。
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