第二話

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 端末に視線を落としているふたりに近づくと、まず虎が顔を上げた。 「なあなあ雪ー、ブツのことなんだけどー」とニヤニヤしてるこいつはブツって言いたいだけだから無視して切り出す。 「流れであんな感じになったけど。あのさ」  俺の反応が薄いから急につまらなくなったのか、虎は再び端末に視線を落として、ふうんとつぶやいた。「楓のほうはどう?」 「Sと」楓は端末を持ち替えて、「こっちはボスだよ」  ふたりの周りにはおびただしい数の端末が転がってる。オメガやブルガリの件があるから、もうあえてつっこまない。どうせ、あいつらから没収したものなんだろ。わかってる。 「番号これ?」と虎が楓に端末の画面を見せる。「みてみて」 「将軍って!」と楓が笑う。 「な、ばかだよな」と虎も笑いをかぶせ、いつの間にか仲良くなって微笑ましいかぎりだが、なんだこの若者についていけないオッサンみたいな胸中は。 「あの……虎君、楓ちゃん」仲間はずれにすんなよ、寂しいだろ!「ところで、あいつらのアタマは設楽ってやつらしいんだけど」 「ん」と端末を眺めて笑い混じりに虎。「らしいね」 「今すぐ調べられるか」 「雪」虎は、端末から顔を上げて顔をしかめる。「いくらおれがかっこよくて頭が良くて超絶腕が立つ元殺し屋でも」自分でそこまでいうか。「できることとできないことがあるの。わかる?」 「そうか……かっこよくて頭が良くて超絶腕が立つ元殺しは片田舎のせこい小悪党の身元すら調べられない、か……しかたない」息をついて端末を尻ポケットから引き抜く。「昔のツテをあたるか……あいつらに頼るのは気が進まないが、この際しかたない……」 「雪ちゃん……私が調べようか?」楓が眉尻を下げて俺の顔をのぞき込む。「片田舎のせこい小悪党の身元程度、あたしの情報筋なら二十分で調べ上げるよ」 「さすがくノ一、頼れるな」 「これくらい楽勝楽勝、だってプロだもん」  という、わかりやすいやりとりを「十五分!」と虎が遮った。「しょうがないから十五分で調べてやるよ!」  ちなみに、天涯孤独の逃亡者だった俺に昔のツテなんかないし、自称プロの楓は「どうぞどうぞ」と快く虎に譲っているから察することにする。
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