青き幻影の彼方に

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その面影を残した吉成先生の笑顔は、私と藍生に向けられる。 「碧さんも引き続き、当院での定期検診お待ちしていますね。虫歯ゼロ、引き続き目指していきましょうね。藍生には麻酔なしで、歯を抜いてあげるよ」 「アホか、お前は。そんな歯医者いねーだろ」 私達のそんな笑い声は、西の方角からの温かな光と混ざり合う。それはこの出発ロビーに降り注ぐ。オレンジ色に染まる窓ガラスはとても綺麗で、この場の雰囲気をも、優しく包む。 そして、ガラス張りの天窓から、雲一つない空が見える。あと少しで陽が落ちることを知らせる、そんなブルーとオレンジのコントラストが目に入る。 「さてと!じゃあな、藍生」 ひらひらと手を振りながら背を向けた先生に、藍生も一言。 「吉成、またな」 あの雨の日は無言の別れだった。言葉を交わすどころか、目さえも合わせず。 今日は、違う。 次があるからこその、‘‘ またな ” だね。 この出発ロビー…… それぞれの想いも今、飛び立つ。 そんな気持ちがして私はこの瞬間を噛みしめた。
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