青き幻影の彼方に

46/58
1688人が本棚に入れています
本棚に追加
/568ページ
そんな風に未来への姿を心の中に映し出した時、吉成先生は、ロビー中央の時計に視線を移す。 「じゃあ……俺、行くよ。明日、朝一番で大阪に行かなくちゃならないんだ」 「仕事か?」 「うん、そうだよ。研修会に参加するんだ」 「……そうか、お前も忙しいな」 「俺さ、歯科医として今までよりも頑張ろうと思う。今日、しみじみそう思った。歯科医になろうと思った昔を思い出したよ」 吉成先生は、歯並びのいい真っ白な歯をこぼれるように見せてから、歯科医を目指そうとした経緯をこう語った。 ‘‘ いつも難しい顔をしていたお母さん。離婚してからは特に笑顔が消えた。でも、お父さんとの再婚が決まった時、 「新しい家族が出来る」と笑った時の笑顔が、忘れられなかった。 このお母さんの笑顔を守りたい…… そう思ったのが、歯科医を目指したきっかけだったと……” 「さっき、行く直前に見せた顔…… 昔……あの時に見た笑顔よりもずっと嬉しそうだった。これからは、家族全員の笑顔を見ていきたいから。 ……藍生もうちを掛かりつけにしなよ」 思い出すは、先ほど見たお母さんの泣き笑いの顔。くしゃくしゃに崩れた表情だったけれど……とても優しい顔をして藍生と吉成先生を見ていた。
/568ページ

最初のコメントを投稿しよう!