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その瞬間、隠れ家的なバーに集まっていた常連客とバーテンは、息を飲んだ。
すべての者の目を釘付けにし、妙齢の美女は口の端を上げ艶然と微笑んでみせる。
誰もが見惚れる中、我に返ったバーテンが、御好きな御席へ、と勧めた。
美女はバーテンと向かい合うカウンター席のスツールに腰を下ろすと、誘うような蠱惑的な笑みで告げる。
「妾を酔わせるほどの美酒をたもれ」
既に酔わされているのは、店内の全員のほうだった。艶やかな声、優雅な一挙一動に、目を、心を奪われる。
美女は差し出されたカクテルグラスの首をしなやかな白い指で雅やかに持った。しかし一気にグラスを傾けカクテルを飲み干す。美女が笑んだ。
「美味じゃの。しかし、妾を酔わせるほどには足りぬ」
次第に高くなるアルコール度数、次第に多くなるアルコール量。
美女の気を引こうと、己のキープボトルを提供した客も幾人かいた。
だが。
カウンターに、次々と空瓶が置かれていく。
飲むごとに美女の艶やかさが増し、その場の全員がますます彼女の色気に酔いしれた。
「さぁ、次を持って参れ」
小さな音を立て空瓶を置き、美女はなおも酒を求める。
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