選抜(セレクション)

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アップルパイを絶賛する俺達にマスターは照れくさそうな表情を浮かべる。 「そういや学園はもうすぐ統一大会の時期だったな。これまではパッとしなかったが、今年のウエスト学園はどうなんだ? 勇者様とやらも参加するんだろうし、いい成績残せるんじゃないか?」 「勇者様ねえ……あの調子じゃそもそも参加できるのかからだな」 「ほう? その心は?」 「能力そのものはまあ腐っても勇者だから悪くはないし、同世代の中だったら突出してると言っていいとは思うけど、今年の学園代表の壁はそれだけで突破できるほど温くはないと思うぜ。それにありゃ戦いには致命的に向いてないな」 「へぇ、まるで間近で見てきたみたいに語るじゃねえか。秘書長ってのは一人一人の生徒のことまで把握してるもんなのか?」 「ま、色々あってな。だから軍のリサーチには「今年は学園の予選からしっかり見とけ」って伝えといてくれ」 ニヤリと笑みを浮かべながらマスターに言い含めると、マスターは「お見通しかい」と苦笑を浮かべる。 軍人達を客に持ち、軍の内情まで精通する情報通のマスターのことだ、当然軍側からも情報通であることは認知されているはずで、そんな人間を軍がノーマークで捨て置く筈はない。 おそらくある程度の自由を保証する代わりに軍に対しても便宜を図るよう言い付けられているーー言い方を変えれば情報屋として抱えられているはず。 大方軍の人事辺りから将来の有望株を学園関係者から聞き出せとでも言われているのだろう。 「そんだけお見通しの上で俺の前で勇者をボロクソに言う兄ちゃんは随分肝が据わってるな」 「勇者様とやらにおべっか使っても今更って程度には色々とやらかしてるもんでな。別に軍に一言一句伝えてもらっても構わないぞ。不敬罪だなんだと言われても軍如きにどうこうされるほど温いつもりもないし」 学園内部での出来事とはいえ、俺と学園長の決闘騒ぎに関してはまず間違いなく軍も把握しているだろう。 少なくとも王国最高戦力の学園長と互角以上の戦いを繰り広げられる相手にことを起こすほど国も愚かではなかろう。 それにそもそも俺と伊邪那美は人間じゃなく使い魔なので人間の法だのなんだのに縛られる立場にないというのもある。
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