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なんだか妙なスイッチが入ったらしい。
俄然本人よりもやる気を出し始めたクレストリアは煌夜がこれまで着ていた学ランを俺に押し付けると、シャインと煌夜を連れてランジェリーショップの中へと消えていく。
あまりにも怒涛の勢いすぎて後の合流の手筈などを整える暇もなかったが、まあチート同士どうとでもなるだろう。
「じゃあ俺はお姫様達のお買い物が終わるまで適当に時間潰してるか」
いくら身内の人間がいるとはいえさすがに男である俺がランジェリーショップに入るのは憚られる為、当分の間は別行動となる。
煌夜の、数年振りであろう「女の子」としての買い物。まだ自身の性別に対する葛藤が拭いきれていない彼女にとってはもしかしたら酷な時間かもしれないが、シャインの明るさとクレストリアの理不尽さが上手く噛み合ってくれることを祈りながらいつぞやのカフェ兼バーへと足を向けた。
「らっしゃい。おう、なんだ兄ちゃん達か。ちょうど暇してたとこなんだ。さ、座んな座んな」
「夜が本番とはいえ、この時間で暇なのは大丈夫なのか、この店」
「やっていけてるからいいんだよ。ブレンドでいいか? ガールフレンドにはアップルパイとかどうだ?」
からんころんと鳴子が鳴り、暇そうにグラスを磨いていたマスターが俺とアリスの姿を認めると、自身の目の前のカウンター席を勧めてくる。
二人並んで席につき、勧められるがまま二人分のアップルパイとコーヒーを注文すると「よしきた」と手際良く豆を挽き始める。
「兄ちゃんはこの間仕事中に会ったが、お二人さんは今日は仲良くデートか?」
「デートなどとそのような……」
「まあそんなとこだ。ほかの身内がちょっとデリケートな買い物中だから、それが終わるまでの暇潰しにな。この間一緒に金落としに来るって言ったし」
マスターの言葉に薄らと頬を染めるアリスを宥めながらお冷で喉を潤す。
からんとグラスの氷が小気味良い音を立てると、マスターがお代わりの水を注いでくれた。
「なるほどね。有言実行とは流石に若くして学園の秘書長なんかやるだけある。さては仕事できるタイプだな?」
「茶化さないでくれよ。そうだ、この間は情報ありがとう。おかげで助かったよ」
「いやいや、あの後王家から発表があったが、結局本当にシャイン殿下がお亡くなりになってたらしいじゃねえか。あんまり役に立てなくて申し訳なく思ってたくらいだから気にしないでくれよ」
話している間に抽出が終わったコーヒーが切り分けられたアップルパイと共に出されてきたので、話もそこそこにアップルパイにフォークを入れる。
パイ生地のさくっとした軽い感触を楽しみながら中の林檎と一緒に口に運ぶと、強い甘さとほのかな酸味が口に広がる。
「うん、美味い。奥さんが育ててるって林檎か?」
隣を見やると、初めて食べるパイ料理に若干苦戦していたらしいアリスも一口目を口に運んだところなようで、咀嚼するや驚愕に目を見開いてから幸せそうな表情を浮かべていた。ちょっとこの生き物が可愛すぎる。
「おう。兄ちゃん達みてえな美男美女にそんだけ喜んでもらえたら嫁さんにいい土産話ができそうだ」
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