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なんとか滑り込むように予選を通過したものの、これではデビュー戦の方がまだまともに走れていたと後悔以外の感情はなかった。
ピットに戻ると少し息を切らせた咲夢が駆け寄ってきた。
「話があるの」
「10分後にさっきの場所でいい?」
「うん」
咲夢の申し出に素直に答え、着替える為にパドック裏に向かった。
その途中、咲夢のさっきの言葉を思い出した。
『話があるの』『うん』
たったそれだけの言葉なのに、昔と同じ口調の咲夢の態度に喜びを感じていた。
着替えを済ませて向かうと、既に咲夢の姿があった。
「おまたせ」
「疲れてるのにごめん」
「いや、大丈夫。何か飲む?」
「うん」
近くの自動販売機を指差さすと咲夢は素直にボタンを押した。
「覚えててくれたんだ」
「あぁ、咲夢こそ、忘れてるんだと思ってた」
「そんな訳ないじゃん」
「だったらあの時なんで何も言ってくれなかったんだ?」
攻める分けでもなんでもない。
ただあの時なぜ俺を避けたのか純粋に知りたかった。
「何年も蒼士くんの事フェンスとかテレビ越しとか、何かを通してしか見てなくて、どんどん遠くに行くような気がして私の事なんて忘れてるんだろうなって怖かった」
そう言って静かにゆっくり、AKAMAに入った理由を話してくれた。
まさか、入社理由がレーサーとしての俺の命をまもりたかったから。
そんな言葉を聞かされて、はいそうですか。なんて言えない。
咲夢と再会して以来、自分の首を絞め続けた黒い感情は一気に吹き飛んだ。
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