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黙って咲夢がすべてを話終わるのを聞いていた。
咲夢の口から紡がれる言葉の一つ一つが嬉しかったと同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになったと同時にあのなんとも言い難い違和感の正体に納得がいった。
「じゃぁ、俺が感じた違和感は正解だったんだ」
「違和感?」
「あぁ、あのハーネスを付けた瞬間、身体を固定されてるのに邪魔にならない感覚って言うのかな? 何かに包まれる様な気がした。咲夢の気持ちだったのかな?」
そう言って笑いかける俺を見て咲夢は照れたように赤くなってうつむいていた。
「……なんか恥ずかしいのは私だけ?」
「あはは、良かったよ。またこうやって咲夢と話せるようになって。俺もうだめだと思ったんだ。もう咲夢とこうやって話せないんだと思ってた」
「私も。一ノ瀬さんって呼ばれた時はなんかもう周りの声聞こえなくなっちゃう位衝撃的だった」
「ごめん。でもわかる。俺も水越さんって呼ばれた時同じ気持ちだった」
自分の知らない所で咲夢は悩んできたんだ。
そんな事の知らずに俺は走り続けてきたんだと……。
どうしてこんな簡単な事に気付かなかったんだろう?
記憶なんてそんなに簡単に忘れる物じゃないはずなのに。
俺はいつの間にか咲夢を顧みる余裕をなくしてしまっていたんだ。
「俺ずっと咲夢と夢輝の夢の為に走ってきた。初めてドライバーチャンピオンになった時それじゃ満足出来なかった。F1で本当の1位になって夢輝の墓参りに行こうって決めたんだ」
「蒼士くん……」
「だから、俺明日絶対勝って絶対歴代1位になってみせる。だからピットレーンで待ってて」
「わかった。蒼士くんがちゃんと帰ってくるの待ってるから」
ずっと小さい頃は咲夢が見に来ていたレースには咲夢が待ってくれていると思うから一番にそこに帰りたい。
その時に見せてくれるあの満開の桜の様な顔を見たかった事を思い出した。
言葉にすれば簡単な事だった。
なんであの時確かめ無かったんだろう?
こんなにお互いがお互いの為だけを思って駆け抜けてきたのに。
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