序章・始まりの朝

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そのままあのおにぎり屋さんのポスターにしてあげたいくらいの至福の表情で食事を終えた竹下さんは、ペットボトルのお茶をゴクゴク飲んで一息ついた。 「ごちそうさま。 ーーーーいよいよだね?」 空になったパックを傍らのゴミ箱に放り込んでから俺に向かって微笑んでみせる。 「10時には出るけど用意はもう大丈夫?」 「昨日のうちに終えてあります」 「そ。ありがとうね。 クライアントが忙しい人みたいだから頻繁な打ち合わせはこれからも望めないと思う。 今日のうちにできる限り話を詰めちゃいたいんだよね。 柿本くんもそのつもりでいてくれる?」 「分かりました」 頷きながら肩に要らぬ力が入ってしまうのを感じてコッソリ深呼吸をした。 いよいよだ。今日からついに始まる。 浅草にあるビストロの改装工事。 本当は年明けすぐにでも打ち合わせをするはずだったのだが、先方の都合で2週間もずれてしまった。 始まりが後ろ倒しになっても基本的に納期は動かない。 だから打ち合わせ前に出来ることは全て済ませておかなくてはいけなかった。 今日まで俺たちは工事に入った場合の業者の選定や、少しでも打ち合わせがスムーズに進むようにラフ案をいくつか仕上げたりと忙しく動き回ってきた。 それでも今日の打ち合わせが終わって本格的に現場が動き出せば忙しさはこれまでの比じゃなくなる。
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