第十六章

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真剣な表情をして私は理人に振り返った。 「ありがとう、理人。……あのね、さっきの話だけど……」 「ん?」 「もし、不幸にも塾の講師になったら……理人と付き合う事も視野に入れておく」 そう言って微笑んだ私に、理人は花開いたような明るい笑みを見せた。 満面の笑みで、嬉しそうに笑う理人を見て、私は胸にチクッとした痛みが走った。 この痛みはなんの痛みなのだろうか。 理人を待たせてしまっていた罪悪感による痛みなのか。 それとも、まだ心の奥に後ろ髪を引かれる思いがあるのだと主張する痛みなのか。 どちらなのかと考えると、チクッとした痛みが、切ない痛みに変化して…… 髪を切ったのに長い髪を引き摺っているような錯覚を感じたけど── この痛みはなんでもない。 考えないでおこう。 無関心を装い過ぎた私は、自分の心まで無関心になろうとした。 だけどそれは、まだ昇華出来ない自分を直視出来ていない、稚拙な自分を認めたくなかっただけだったのかもしれない。
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