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その「嫁募集中」なるサイトに写真を載せている御当人は若い男性で、ブ男ということではなく、どちらかと言えば素敵なタイプだ。
どうしてこれまで彼女ができなかったのだろう、と思わず興味をそそられる。
和子がマウスを動かしつつそのウェブサイトを披露し、嫁募集の意図らしき箇所を読み上げてくれた。
「共に寄り添い、支え合い、未来を見つめ合えるパートナーを探しております。仕事だけじゃなく・・人を愛したい。そう、結婚がしたいのです、
・・だってさ。言っていることはマトモじゃない」
嫁募集中の男は真紅のバラの花束を捧げ持ち、フザけたポーズで写っていた。
「それにしても、なんか、悪フザケって感じ」
富貴子が感想を述べ、和子が肩をすくめた。
「ま、それは有り得るよね。今日は四月一日、エイプリル・フールズ・デーだし」
「ああ、そういうことか。それにしても、結婚を夢見る乙女心を笑いのネタにするのは、同性として断じて許せない」
富貴子が自分のデスクに戻ろうとすると、相変わらずパソコンで「嫁募集中」の記事を読みながら、和子が笑いを滲ませた声で付け加えた。
「ちょっと、ここ読んでみてよ。この人、おっぱいが大きい人歓迎、だって」
「うわ、イヤラシイ。ますます許せないよ」
笑いながら富貴子が席に戻った後も、和子はパソコンの画面から眼を離さず、真剣にサイトを検討しているようだった。
富貴子は、結婚なんて、というポーズを崩さない、サーティーサムシングの独身美人。彼氏がいるとのウワサは耳にしたことがないけれど、夜の約束は多いみたいで、プライベートライフは謎だ。
同期の和子は好美と同じく二十九歳、三十路(みそじ)に突入する前に結婚する、と息まいている。
ネットの交流サイトとか、まめにチェックして使い勝手や成果を報告してくれる。最近は婚活と称して、合コンもどきの勉強会や交流会にも積極的に参加しているらしい。
和子の隣でウェブサイトを一緒にのぞき込んでいた好美の脳裏に、「嫁募集中」という記事のタイトルがチラついた。
「で、他に条件とか、付いているわけ?」
思わず好美が尋ねると、スクリーンを上下に忙しく動かしながら、和子が教えてくれた。
「うーんと、一緒に群馬の田舎で暮らして欲しい、だってさ」
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