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本当のことが、知りたかった。
そして、母が垣間見せた悲痛な表情に、悪い予感が当たったことを思い知らされたのだった。
「もう老人だから、手術は老体に負担が重いからやめた方がいい、って先生に言われたわ。それに・・相当大きくなっているらしくて、・・手術で取り除くのは難しい、って」
母が県立病院の医師から聞かされた診断を話してくれるのを聞きながら、好美の胸に重石のような違和感がつかえた。
手術できないとしても、何か治療方法がないものだろうか。
ガンだとしても、薬とか放射線治療で治る人がいるはずだ。
何かできることはないだろうか。
胸をふさぎはじめた暗澹とした想いは、悲しみというより、自分の無力を思い知らされたことによる憤りに似ていた。
昔、ガンという病魔に父を奪われ、そして今再び、ガンが祖母の身体をも蝕んでいるという。
父に死なれた高校生だったあの頃より、ずっと大人になっているというのに、この私には、何とかして祖母を助けることが、できないのだろうか。
「おばあちゃん、それで・・後、どれぐらいなの?」
好美は唇を噛み締め、恐る恐る母に尋ねた。
母は眼を伏せて湯呑を両手で握り締めると、小声で答えた。
「長くて、・・後一年ぐらいらしい」
余命一年。
あたかも自分が余命宣告されたかのように、おののかずにはいられない。
好美がショックのあまり押し黙っていると、祖母には悪い風邪だとだけ伝えてあるから、絶対にガンだと悟られないように、と母に念を押されたのだった。
「先生は、気力の問題だ、ともおっしゃったの。
老人の場合は、本人に病状を告知して闘病するより、普段と同じように生活した方がいいかもしれない、って。
だからおばあちゃんには、風邪だからそのうち治るだろう、って信じていて欲しいの。なるべく長くうちで静養してもらえるように、と思って」
母の言葉を噛み締めながら、好美の胸には闘志に似たものが芽生えはじめていた。
ガンであろうと何であろうと、祖母を奪い去ろうとするものには何としても徹底して対抗してやる、との漠然とした気概、一種の覚悟だ。
優しかったおばあちゃん。
うどん屋の人出が足りず、父も母も忙しくしていたので、好美は祖母に育てられたようなものだ。
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