茜の海岸

2/17
144人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
 大学生になってすでに四ヶ月以上が過ぎていた。季節は夏、大学は夏休みに入っている。大学生になって初めての夏休みは車の免許を取るための合宿にほとんどの時間を費やしてしまったが、おかげで無事に免許を取得することができた。とはいえ、車を買うような余裕は当然無いので、これはしばらくの間、身分証明書としての役割だけを担うのだろう。  マンションへ戻る電車の途中で免許証を取り出しては、ついつい眺め、手の中で弄ぶ。その途中、携帯電話が着信を知らせた。  表示されている電話番号は桜井茜さんの物だった。彼女ともしばらく会っていない。あの事件以降、特に連絡を取るようなことはなく、お互いに大学の構内で顔を合わせれば多少は会話をする、その程度の関係となっていた。それは彼女の姉である葵さんに対しても同様で、あの数日の出来事が幻だったのではないかとすら思えるほどだった。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!