助けて

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そんな、まりこの耳に救急車のサイレンが飛び込んできた。近所に病院があるから、時折そこに救急車がやってくるのだ。 「き、救急車・・・」 祖母の家にある電話は、いまだに黒電話だ。しかし、この電話の仕組みがまりこは今ひとつわからない。 「どうやるんだっけ?」 頭が真っ白なのにさらに追い込まれた感じだ。 「どうしよう?どうしよう?」 目には涙が浮かんでいた。 わからない。どうしたらいいのだろう。誰か、誰か助けて。と心の中で何度も叫んだ。 受話器を取る。ここまではいいのだ。けれども、ここからがわからない。数字の書いてあるところを何度押しても反応がない。 「なんで?なんでよー」 叫んだ。その叫んだ自分を焦点の合っていない瞳で祖母は見続ける。それがたまらなく怖かった。 「おばあちゃん、そんな目で見ないでよ」 「・・・」 祖母は何も答えない。うっすらと口を開きこっちを見ているだけだ。 「止めてよ、おばあちゃん・・・」 まりこはさらに追い込まれる。もしこの場で安易に命を絶つ方法を神が与えてくれるのなら、迷わずそれを受け入れただろう。 「ダメ。わからない」 開き直りに似た気持ちが湧く。こんな状況の時は感情が定まらない。突然前向きな気持ちが芽生え、アイデアも同時に降ってくる。もっとも、そのアイデアと言うのはそれぞれの経験に裏打ちされるものだから、まりこの短い経験の中ではたいしたものが降ってくるわけはなかった。 「あ、スマホ・・・」 さっきまでお風呂で使っていたスマホ。そのまま脱衣場に置いてきてしまっていたから、完全に存在を忘れていた。慌てて取りに向かった。 「あった!」 バッテリーの表示は20%を切っていたけれど、電話くらいはできる。まりこは「119」と押した。
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