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いろいろな鍵のついたキーホルダーをポケットから取り出す。スーツのポケットが膨らんでいたのは、このキーホルダーが原因だ。
「よっこらせ」
鍵を右に回すとき、なぜかかけ声をかけていた。いつも、つい言ってしまう。嫌なクセだ。
そして部屋に入る。
「ただいま」なんて言わない。どうせ誰も答えてはくれないのだから。
部屋の奥に手探りで向かい、それから電気のスイッチを押す。
「今日も疲れたー」
テレビのリモコンを押しながら言った。
カーテンは閉めない。と言うか、カーテンは買ってない。そんな金があるならビールを余計に買った方がいい。そんな考えからだ。
部屋は散らかっており、足で床にある物を退かしながら座る場所を作った。
「よっこらせ」
小さな座卓の上に、買ってきたコンビニ袋を置いた。それからガラスに映る自分を見た。
「やつれてるなー、俺」
小太りな男の体型を見てやつれていると思う者はいないだろう。それでも男自身からすればやつれているらしい。
カナカナカナ。
そんな時、虫の音がした。
「え?」
間違いなく聞こえる。服について入って来たのだろうか。
「どこだ?」
と言いつつ視線はコンビニ袋にしかない。
虫より晩飯だ。ビールを勢いよく開けると、炭酸のはじける音が耳に心地よい。
「ぷはー」
お決まりのパターン。一口飲むとついつい言ってしまう。それからコロッケに手が伸びた。
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