欲望と……

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「水城さんに会いに来たんです」 そう、真っ直ぐな瞳で用件を言われると、 何となく恥ずかしくなって、慌ててスリッパを差し出して中へと促す。 「ユウはもう少し遅くなるけど、どんなご用件ですか?」 私とユウを さぞかし恨んでいるだろう少女の登場で、 娘の菜月の前でも動揺を隠せないまま、紅茶をそっと置いて、静かに座った。 「実は、この間 修学旅行で沖縄に行ったんです」 それに一口、口をつけた律子さんは、 「沖縄?」 リビングの華々しい写真達に時折視線を移しながら、 笑顔を見せることもなく 淡々と続けていく。 「その自由散策中に、水城さんの撮影現場に遭遇して、 スタッフの方にスカウトされました」 「…………そう」 沖縄で会った知人て、茶旗さんだけじゃなかったのね。 桃田くんの妹ならそう言って欲しかった。 「ワンカットだけだけど、無料で記念に写真を撮って頂いて………これがそうです」 律子さんがショルダーバッグから取り出した、封筒に入った写真を取り出して私に見せる。 「!」 沖縄のエメラルドグリーンに映える、 半裸の少女。 その彼女の胸や腰にハイビスカスが咲き乱れて 若々しい艶やかな肌と光沢が印象的な1枚だ。 「……これを、記念に無料で?」 この仕上がりなら、 商品としてでも使える立派な仕上がりだ。 「脱ぐとき とても勇気がいったんですけど、水城さんがすごく優しくて」 その素晴らしい出来映えの写真を見つめながら、 水城の名前を出す少女は、 まるで、 「母を狂わせた人だから、会ってしまったときは殺してしまうかもしれないって思いましたけど、 実物に会ってしまったら、 とても素敵で、全部を見せてもいいとさえ思えました」 ____恋しているみたいだ。 image=482961081.jpg
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