其之壱 ヤカンヅル

14/22
2576人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ
「ごめんごめんっ! それで、曾お爺さんはどんなことができたの?」 「手をかざすだけで色々なものが見えたそうです。人や物の姿形は勿論、他人の抱える悩みとか、探し物の場所とか、兆候の見えていない病を言い当てたりとか。他にも近い未来とか、透視とか、犯罪者の居場所を言い当てて警察に協力したって話も聞いたことがあります。まあ、何処まで本当かわかりませんけど」 「すっごーい! 無敵じゃん!」  ハル先輩はお喜びの様子だ。言ってることは意味わからんが。 「透視いいな」  燐太郎は燐太郎で、欲望丸出しのことを呟いている。いや、俺も羨ましくないとは言わないけどね。 「ん? ちょっと待てよ。じゃあ、俺の聞いた『手の目』ってのは何なんだ?」 「そうそれ! それ大事なところ!」  燐太郎の疑問にハル先輩がこれ以上ないくらいの勢いで同意した。やはり、超能力よりも妖怪が好きらしい。 「単なる脚色ですよ」と、俺は答えた。 「脚色?」 「ハル先輩が仕掛けた『ヤカンヅル』とかいうのと一緒です。あれはどう考えてもただ単に変なものが木の枝にぶら下がっていただけですよね?」 「まあ、うん。そうだね」 「でもそれを誰かが『妖怪だ!』と騒ぎ立てたから、ただのヤカンは『ヤカンヅル』という妖怪になり、文献に名を遺して現代にまでにまで伝わっている。曽祖父も同じですよ」 「そっか。『手の目』は盗賊に殺された盲目の男の怨念と言われている。曾お爺さんも同じく盲目で、手をかざすだけであらゆるものが見える。まるで手のひらに目があるかのように」 「そういうことです」  ヤカンヅルに関しても曽祖父の手の目に関しても、最初に脚色した誰かがいる。そいつは冗談のつもりだったのかもしれない。しかしそれは、時としてこのように現代にまで伝わってしまうことがある。  ――その結果、苦しむ奴もいる。 「俺の話は終わりです。くれぐれも他言無用でお願いしますよ」 「うん。ありがとう」 「帰るぞ燐太郎」 「おお。あ、最後にもう一枚っと」  早々に立ち上がる俺の隣で、燐太郎がクッキーを一枚口に放り込む。未練たらしい奴だな。そんなに女の子の手作りが嬉しいのか。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!