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「……もしかして、彼女、とか?」
「!」
静かに訊ねられて、ビクッとした。
そう思うのならば、どうぞその手を離してください。
……なんて言えるはずもなく、ひくっと口角を上げて視線を外す。
何だろう、この心もとない感じ。どうしてこんなにも嫌な感じがうごめくんだろう。
「……悪いけど今から帰るとこだから」
そこまで聞かれて、直くんがその腕を払った。チップのついた長い指先が名残惜しそうに揺らめく。
「行こう楓奈」
“彼女”とは答えず、彼女にはサヨナラも告げず、直くんが未練もなく背を向ける。
あたしの方がどうしていいか分からずに、そろそろと頭を下げた。
直くんと知り合って初めて、直くんが女の子に触れられているところを見た。
それも、とても馴れ馴れしく。
近しい距離で。
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